中米ニカラグアのモスキート海岸に面する2つの小さな村で、電力消費の効率化を目指すプロジェクトが実施され、効果分析の結果が公表された。レポートでは、世界の貧困地域で暮らす人々の効率的なエネルギー利用により、化石燃料の燃焼に伴う温室効果ガス排出の抑制につながる可能性が指摘されている。

プロジェクト実施の現場は、オリノコ(Orinoco)とプンタマーシャル(Punta Marshall)。電力消費量が30%近く低減し、さらに、エネルギー効率の高い電球型蛍光灯(CFL)を配布したところ、効果が10%上積みされたという。
世界銀行で再生可能エネルギーおよび省エネのチーフテクニカルスペシャリストを務めるダニエル・カメン氏は、自らも参加した調査と分析結果について、「貧困解消のためのインフラ整備が、地球全体の環境保全にも貢献することを示唆している」と話す。
現在、全世界で15億人が電気とまったく縁のない生活を送っている。また、安定した電力供給を見込めない10億人に加えて、世界の総人口の約半数は現在も薪や木炭、動物の糞を生活燃料として利用しており、人々の健康被害や大気汚染の原因ともなっている。
国連は2010年秋、国際エネルギー機関(IEA)と共同で発表した報告書の中で、貧困問題の解決に向けたさまざまな目標達成には、貧困に苦しむ地域での電力供給網の整備と家電設備の普及への取り組みが各国に求められていると述べている。
ただし、政府や公的機関がインフラ整備に投資する際に短期支出を重要視する結果、長期的なメリットが相殺されてしまう傾向がある。その代表例がディーゼル発電だ。先行投資費用が安い上に燃料の入手が容易なので、新興国の貧しい農村地域で採用されることが多い。調査チームは、結果的に不利なディーゼル発電採用の背景には、不安定な原油価格がコスト高を招くという認識が不足していると指摘する。
オリノコとプンタマーシャルもまさにその典型だった。この2つの村ではこれまで、ディーゼル発電機を用いた国営の“マイクログリッド”により電力が供給されていた。マイクログリッドにニカラグア政府がどの程度の費用を拠出したのかは定かでない。ただ、発電にのみ要する費用(設備投資費を除外したいわゆる限界費用)を首都マナグアのディーゼル燃料の平均価格を基に算出したところ、1キロワット時あたり54セント(約45円)だった。これは、ニカラグア国内各地を結ぶ主要電力網における推定発電費用の5倍以上に相当する。
また各世帯には電力メーターが設置されておらず、それぞれ戸別に定められた一定料金を支払っていた。しかもその料金は、各家庭における電気製品の予測使用台数に基づいて政府と電力会社が決めるというずさんなもの。ただ、調査チームに加わったカリフォルニア大学バークレー校、再生可能・適正エネルギー研究所のクリスチャン・カシラス氏によると、新興国では決して珍しくない方法だという。「正確な電力使用量を把握すれば利用者意識が変化し、長期的にさまざまなメリットが得られることは、われわれの調査でも実証されている。だが農村部の電力会社は、電力メーターの設置費用に気を取られるばかりで、長期的メリットに目を向ける余裕がない」。
オリノコとプンタマーシャルでこのプロジェクトが始動したのは2009年夏。ニカラグア政府とNPO「blueEnergy」が協力して実現した。まず推定約4350ドル(約36万円)をかけて各世帯に一般的な電力メーターを設置したところ、早速効果が現れた。全世帯の消費量がおよそ28%減少したのである。特に日中は減少の度合いが著しかった。調査チームは、人々が昼間に電灯を消す習慣を身に付けたのではないかと分析する。28%分をディーゼル燃料の消費量に換算すると、年間約2万1000リットル。1リットルあたり1.06ドル(約89円)として総額2万2000ドル(約185万円)以上の節約になるほか、炭素排出量も57トンの削減に相当する。1トンあたり386ドル(約3万2000円)で温室効果ガス排出の抑制を達成したことになる。
これに加えてプロジェクトでは、高エネルギー効率の電球型蛍光灯(CFL)を計330個用意し、各世帯2個を上限として白熱電球と交換した。調査チームの試算によると、要した費用は人件費を含めて1030ドル(約8万6000円)程度だということだが、全体の電力消費量が1日あたり50キロワット時減少とその効果は大きい。これは、電力メーター設置の結果に加え、さらに10%減少した計算になる。ディーゼル燃料の消費量に換算すると年間9310リットル、炭素排出量は25トンに相当する。
国連の活動を支援する「国連基金」のリチェンダ・バン・リーウェン(Richenda Van Leeuwen)氏は今回の分析手法について、「エネルギー効率の向上によって状況を改善する道筋を探る上で非常に参考になる」と評価する。リーウェン氏は特に、薪や動物の糞の燃料利用を抑制する手段として応用できるのではないかという。こうした生活を営んでいる人は現在世界に30億人いると言われているが、火を付けて燃やすと炭素微粒子が空気中に放出されるため、気候変動の大きな要因になる上、特に女性や子どもの健康を害する可能性も高い。
「煙を排出する生活燃料とディーゼル発電についても、同様の調査、分析を行う余地があると思う。煙が充満する環境で生活している人は普段から、医師の診断を受けたり、急性肺炎などの呼吸器系疾患を治療したりすることが多い。その費用を算出すれば有効なデータになるだろう」とリーウェン氏は述べる。
一方、カメン氏は自身の研究成果の中で、世帯別のエネルギー消費支出が所得全体の30%以上を占めているような世界の貧困地域についても同じような調査を行うことが重要だと指摘する。富裕国におけるエネルギー消費支出は、GDP(国内総生産)のわずか2~3%にすぎない。「エネルギー供給には概して金がかかる。より効率的に供給する手段は貧困地域にこそ必要だ」。
今回の調査結果は11月26日発行の「Science」誌に掲載されている。
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