2010年4月、メキシコ湾でアメリカ史上最悪の原油流出事故が発生した。海上では作業員たちが水面の油膜をすくい取り、オイルフェンスを設置し、海岸から原油を除去した。一方、深さ数千メートルの海中では、遠隔操作無人探査機(ROV)と呼ばれるたくましい小型潜水艇が、原油流出を食い止めるべく奮闘していた。

4月22日に水没したイギリスBP社の石油掘削基地ディープウォーター・ホライズンの油井頭部に、船上から遠隔操作されたロボットたちが取り付いた。彼らはパイプの切断から設備の撤去、重いホースやセンサーの取り付け、さらには高画質映像の撮影までこなすことになる。
油井にキャップを取り付ける依頼を受けたROV開発企業の一つ、テキサス州ヒューストンのオーシャニアリング・インターナショナル社のハンス・クロス氏は、「メキシコ湾でのミッションは、ほぼすべてが初体験だった」と振り返る。
ROVが休む間もなく原油流出の食い止めに奮闘する一方で、まったく別の水中ロボットたちが流出の影響調査のために監視を行っていた。有害な炭化水素がメキシコ湾海底からさらに外部まで移動している疑いがあったためだ。
まず、アメリカ、カリフォルニア州にあるスクリップス海洋研究所に、自律型無人潜水機(AUV)「スプレー(Spray)」の出動依頼が届いた。魚雷のような形をしたスプレーは全長2メートル、重さ約50キロで、スクリューがないため“グライダー”と呼ばれている。艇体内の鉱油を油圧ポンプを使って移動させ、浮力を調節し、移動と浮き沈みを実現する。
スプレーは夏の大部分を、原油流出の現場から離れた場所で過ごした。主な任務は、ループ・カレントと呼ばれる高速の海流から分離し、メキシコ湾の中心部で渦巻く海流を監視することだった。スプレーは約6時間ごとに海面まで上昇、衛星電話回線でデータを送信した。そのデータに基づき、アメリカ海軍海洋局がメキシコ湾の海流が運ぶ原油の地図をほぼリアルタイムで作成した。リアルタイムの位置情報は、流出原油対策に役立つ。例えば、素早くボートを派遣し、原油を燃やしたり、すくい取ったり、吸い取ったり、カメの卵を安全な場所に移したりといった具合だ。
深海の原油プルーム探査に派遣されたのが、カリフォルニア州にあるモントレー湾水族館研究所(MBARI)が開発した自己推進型AUV「ドラド(Dorado)」だ。ドラドも魚雷のような形だが、長さは最大で6.5メートルに及ぶ。典型的なグライダー型より速く動け、搭載する機器の数も多い。ドラドのセンサーは原油プルームの中に、高濃度な炭化水素が常にあることを検知した。水の試料も採取しており、研究所で分析したところ、センサーのデータを裏付ける分析結果が出た。炭化水素を多く含む場合、原油の分解が進みにくい。
MBARIの科学者たちはこの任務のために、さまざまな動作を可能にするソフトウェアのアルゴリズムを開発した。ドラドは“芝生を刈る”ような前後の動きだけでなく、物質の蛍光性を測定し、分解した原油など有色溶存有機物(CDOM)が多い場所へ直行することや、試料採取のための旋回も可能になった。
この夏、メキシコ湾で働いたロボットの中でも特に優秀だったのが、アメリカ、マサチューセッツ州のウッズホール海洋研究所で製作された「セントリー(Sentry)」だ。セントリーは高さ150センチの潜水艇で、横幅が狭く、側面が平らなマンボウに似た形をしている。海洋調査のための機器をいくつも搭載し、直立の姿勢で潜航する。 6月下旬、原油が噴き出す現場から約5キロ南に配備された。セントリーは海中を縦横に動き回り、数万カ所のデータを記録した。そして、水深およそ1100メートルの地点に、長さ35キロ、幅2キロ、高さ200メートルの原油プルームを突き止めた。
セントリーの調査を率いたリチャード・カミリ氏は、「大きなプルームに聞こえるかもしれないが、広大なメキシコ湾の中では、干し草の山から1本の針を探すようなものだった」と話す。カミリ氏らはある重要な事実を突き止めた。それは、原油プルームの酸素濃度が通常より少しだけ低い程度だったことだ。つまり、一部の予想と異なり、微生物はそれほど素早く油を分解していなかったことになる。
ロボット工学の急速な進歩が恩恵をもたらす分野は、原油流出の事故対応ばかりではない。海底に眠る石油探査をスピードアップしたり、掘削時の災害防止など、その活躍の場は広がっている。例えば、ノルウェーのSeabed Rig AS社は、ディープウォーター・ホライズンに似た掘削装置を開発中だ。ただし、同社は基本コンセプトに巨大な海底ロボットを据えている。
ディープウォーター・ホライズンの高リスク要因は、水圧がとてつもなく高い深海で掘削する危険性を十分把握していなかった点にある。掘削装置に海中ロボットを採用しても、深海での掘削が飛躍的に容易になったり、コストが下がったりすることはないかもしれない。それでも、安全性の向上に寄与する可能性は十分にある。
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