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世界有数の古代湖「琵琶湖」

  • 投稿者:
  • NISORO事務局
  • 2010年08月22日

古代湖としての琵琶湖
古代湖としての琵琶湖

日本を代表する湖である琵琶湖は、その形成から400万年もの歴史を持つ古い湖だ。その長い歴史は世界的に見ても貴重なものだとされる。通常の湖は、河川から流入する土砂が徐々に堆積していくために、平均すると数千年から数万年ほどの寿命しかないとされるが、琵琶湖のようにその時代によって場所や形態を変化させながらも長い期間にわたって存在し続けてきた湖がある。「古代湖」と呼ばれる湖だ。

 古代湖は世界でも20数ヵ所のみが確認されているに過ぎない。世界的にも有名なバイカル湖(ロシア)やタンガニーカ湖(アフリカ)、チチカカ湖(ペルー・ボリビア)も古代湖に数えられる。バイカル湖などと比較すれば、その規模も小さく、歴史も浅いとされる琵琶湖であるが、日本で古代湖と確認されているのは琵琶湖ただ1つだ。琵琶湖の歴史に詳しい琵琶湖博物館の中島さんによると、「実際のところ、世界的に見ても、きちんとした調査がなされている湖の数自体が少なく、その歴史が明らかにされていないものも少なくない」という事情もあるようだが、日本最大の湖の違う一面を見ることができる。

 琵琶湖には400万年という歴史があるが、現在見ることができる姿でずっと存在してきたわけではない。琵琶湖はその形態を変えつつ、北へ移動を続けながら、その歴史を刻んできた。その間には、2度の河川時代も含んでいる。琵琶湖が現在の姿になったのは、今から40万年ほど前のことだ。400万年前の古琵琶湖には肩高4メートルにもなる大型のゾウの仲間ミエゾウ(注1)やワニ類なども生息していたと考えられており、珪藻類の化石から今よりも温暖な気候であったことがわかっている。琵琶湖の歴史はその化石や地層から比較的細かい年代までを特定することができる、古代湖の中でも稀な湖だという。中島さんによると、「バイカル湖などは、2000万年もの間同じ場所にとどまり続けているため、その歴史を解明するためには、生物の中に残されているDNAの解析による調査や大規模なボーリング調査による地質調査が必要となる」そうだ。琵琶湖は、古代湖の成り立ちの歴史を解明するという意味でも重要な湖だといえる。

 古代湖は長い期間にわたって、独自の生態系を維持してきたため、固有種の宝庫としても知られる。陸上生物にとっての島のようなもので、琵琶湖でも数多くの固有種が生息する独特な生態系が形成されている。現在、琵琶湖で確認されている固有種は魚種を中心に58種ほど。その中には、体長1.2メートルにもなるビワコオオナマズや琵琶湖を海の代わりとして成長するビワマス、鮒寿司の原料となるニゴロブナなどがいる。日本のほぼ中心部にあり、人間にとってみれば、隔離された環境でもない場所としては、その多さに驚かされる。また、固有種として分化する途中の過程にあるとされる生物も数多く確認されており、これから数万年~数十万年という月日を重ねるうちに、日本の他の地域に生息する近縁種とは全く違う進化をとげる可能性もあるという。

 そうした固有種の宝庫である琵琶湖で、今外来種による被害が深刻になっている。琵琶湖周辺では、かねてから外来種の進出は報告されてきたが、これまでは外来種が琵琶湖の生態系に根付くことは稀だったのだという。それは、琵琶湖の生態系が長い時間をかけて独自の進化を遂げてきた証拠でもあり、他の生物を寄せ付けない強固な生態系が形成されてきたためだ。そのような琵琶湖に異変が見え始めたのは、1970年代後半に入ってからのことだ。


※(注1)ミエゾウ
 約400万~300万年前に生息していた肩高四メートルのステゴドン科の大型ゾウ。かつては「シンシュウゾウ」とも呼ばれていたが、2002年からは「ミエゾウ」という和名が用いられることになっている。ミエゾウの化石は日本各地から見つかっており、日本全土に分布していたものと考えられている。



外来種と環境の変化に脅かされる生態系
外来種と環境の変化に脅かされる生態系

外来種の進出によって琵琶湖の生態系が危機に瀕している。その大きな原因は食用や釣りの対象魚として日本に移入されたブラックバスとブルーギルの問題だ。琵琶湖へはおもに人為的な放流により、持ち込まれたと考えられている。ブラックバスとブルーギルは、魚食性が非常に強く、琵琶湖在来の魚の生息に大きな影響を与えていることが分かってきている。

 琵琶湖で、ブラックバスの被害が目立ち出したのは1980年代に入ってからだ。その原因は様々考えられるが、岸辺がコンクリートで固められたことなど生息環境の急速な変化も要因の一つだとされている。また、強固な在来種の生態系を持つ琵琶湖の場合、ブルーギルだけであれば、大きな影響が見られなかったというが、ブラックバスが在来種を駆逐してできた生態系の空白にブルーギルが入り込んだために、大きな影響が生じたと言われる。

 琵琶湖で外来種の駆除を行っている「琵琶湖を戻す会」の高田さんによると、「現在琵琶湖の南湖で採れる魚の9割以上が外来種となっている」という。琵琶湖周辺の地域にはかつてタナゴが多く生息しており、その数の多さからタナゴ類のことを「ぼてじゃこ」と呼んで親しんできた歴史もある。その「ぼてじゃこ」の生息数が急速に減少し、目にするのも珍しくなってしまった。外来種の侵入もタナゴが数を減らした要因の一つだとされる。特に、かつては琵琶湖・淀川水系に一般的に見られていたイチモンジタナゴは、現在滋賀県内では数か所でしか生息が確認されない状況にまで追い込まれ、環境省レッドリストで絶滅危惧ⅠA類に指定されているほどだ。

 高田さんによると、「タナゴなどの生息地の破壊や外来魚による捕食の被害は深刻で、琵琶湖の在来種の多くは本来の生息地を追われてしまった」のだという。生き残った在来種は水田の用水路や小川に入り込んで何とかその命を繋いでいるというのが現状だ。小川や田んぼに入り込むためには、数十センチの段差などを飛び越えていく必要があるのだが、そうした環境で長年生息してきた在来種にとっては何でもないその障壁が外来種の進出を防ぐ最後の防波堤となっている。

 また、琵琶湖では、「こうした外来種による影響に加え、気候変動による影響も表面化しつつある」と琵琶湖博物館の中島さんはいう。特に、琵琶湖北部の山間部での降雪量の減少は琵琶湖の生物にも深刻な影響を与えている。一般的に、多くの湖では、夏場の成層期には、表層の水から酸素の供給が途絶えるため、深層水は無酸素状態となる。しかし、琵琶湖の北部に注ぎ込む雪解け水は水温が低いため比重が重く、琵琶湖に流れ込むと湖底に落ち込んでいく。雪解け水が湖底に入り込むと、それまで湖底に滞留していた水は押し出され水面のほうに押し上げられることになり、湖内で水の循環が促される。水の循環は湖底に堆積した有機物をかく乱させる作用とともに、雪解け水に多量に含まれる酸素が琵琶湖の湖底に大量に送りこまれることになるため、多くの生物が生息可能な環境が作られるというわけだ。

 この作用によって、低温の水を好み琵琶湖の最深部に生息するビワマスやイサザなどの琵琶湖固有の在来種の生息が可能となっていた。サケ科の魚はよく知られているとおり、通常は川で産卵し、孵化した稚魚は川を下って海で成長する。ビワマスは琵琶湖を海の代わりにして成長するサケ科の魚の中でも珍しい種類で、10℃前後の水温を好む。夏場などには30℃近くなる琵琶湖の表層部では生息することができないため、主に水深15~20メートルの中層部で生息している。雪解けの水の減少は、こうした魚種の生息に大きな影響を与えるとされる。

 地球温暖化の琵琶湖への影響については、まだ科学的には明らかにされていない面が多いが、降雪量の減少がこのまま進めば、多くの在来種がその影響を受けることが予測される。


琵琶湖の自然保護活動
琵琶湖の自然保護活動

固有種が数多く生息し、独自の生態系を形成する琵琶湖を抱える滋賀県は、環境問題に関心が高い市民が多いことでも知られる。そのため、古くから多くの市民団体が環境問題に取り組んできた。1977年の赤潮の大発生を契機にはじまった「石けん運動」(注2)や菜種油をバイオエネルギーとして活用する「菜の花プロジェクト」は全国的な注目集めた活動だ。

 世界的規模で、自然環境や生態系の保全に取り組んでいるWWF(世界自然保護基金)も、固有種が多数生息している琵琶湖の生態系を世界的にも貴重な自然環境だと考え、2002年から活動を行っている。

 WWFジャパンの水野さんによると、「WWFが琵琶湖での環境保全活動に取り組み始めた当初、すでに著名な環境保護団体が保全活動を行っていたが、各地域において最も身近にある小さな小川や水路に生息する魚類については、これまできちんと調査が行われてこなかった」という現状であったという。

 しかし、琵琶湖の貴重な生態系を保全していくためには、市民・行政・企業という枠組みを越えてたくさんの人が保全活動に参加する社会システムを構築することが必要だと考え、彦根市に工場を有する(株)ブリヂストンなどの支援を得て、琵琶湖博物館うおの会を始めとする市民団体と共に、市民参加による魚類調査を行うこととした。「琵琶湖お魚ネットワーク」という一大プロジェクトだ。琵琶湖では、それまで湖内の魚類調査は行われたことがあったが、この新しい魚類調査では琵琶湖とその周辺の小川や水田などを含めた統計データの収集を目的とした。

 その調査結果から琵琶湖に生息する魚類の分布状況を見ると、ブラックバスやブルーギルにより元々の生息地を追われた在来種の多くが、琵琶湖周辺の小河川や田んぼなどでひっそりと生息していることが確認できる。結果的に、周辺の地域にまで調査範囲を広げたことは、現在の在来種の生息状況を把握するという意味で、大きな価値があったといえる。「琵琶湖お魚ネットワーク」は2007年12月までに淀川流域2府1県の約11,700ヵ所からデータを収集することに成功し、まさに日本最大の魚類調査となっている。

 大規模な魚類調査となった「琵琶湖お魚ネットワーク」だが、今後の課題は集積された膨大なデータの集計・分析にある。水野さんは、「魚類調査をただの遊びで終わらせることなく、科学的なモニタリングに繋げることが重要だと考えています。そうしたモニタリングを行った上で、保全するべき地域のマップを作成し、保全計画を立てていくことが必要です。私たちの活動は、地域に保全活動を定着させることを目標としており、人と人とのつながりを守り育んでいくことが重要だと考えています」と話してくれた。

 古代湖として、貴重な生態系を今に残している琵琶湖の自然。固有種の宝庫であることは、あまり知られていない事実ではあるが、その生態系を守り続けるためには今後も地道な活動が必要となるだろう。


※(注2) 石けん運動
 1977年に発生した琵琶湖での赤潮発生の原因の一つが合成洗剤に含まれるリンに起因することがわかり、市民がすすんで合成洗剤の使用をやめ、粉石けんを使用することを推進した運動。


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