• 環境問題とSORA-WEB
  • SORA-WEBレゾナンスが注目する、そら祭りと関係のある環境問題や様々な取組みをご紹介します。

原油流出でメキシコ湾のクジラが絶滅?

  • 投稿者:
  • NISORO事務局
  • 2010年05月25日

テキサス州のメキシコ湾岸にあるポート・アランサスの波打ち際に打ち上げられた1頭のマッコウクジラ(2008年撮影)。

メキシコ湾に生息するマッコウクジラの個体群は、今回の原油流出事故でわずか3頭が死ぬだけで、長期的に深刻な危機に陥る可能性があるという。

 現在メキシコ湾には年間を通じて1400~1660頭のマッコウクジラが生息し、毎年オスが回遊する大西洋のほかの群れとは異なる独自のグループを形成している。アメリカの絶滅危惧種法(ESA)ではすべてのマッコウクジラが絶滅危惧種に指定されているが、中でもメキシコ湾のマッコウクジラの個体群は生息数が比較的少ないため、特に危機に瀕していると考えられている。

 そのメキシコ湾のマッコウクジラたちが今、石油掘削基地ディープウォーター・ホライズンの事故による原油流出で危険に晒されている。有害な原油や、石油が気化したガスをクジラが体内に摂取したり吸入したりする恐れがあるためだ。

「一方で原油による汚染が起こりつつあり、もう一方に絶滅危惧種がいる。この2つが合わされば立派な懸念材料だ」とテキサス工科大学の環境毒性学者セリーヌ・ゴダール・コディング氏は警戒する。

 米国海洋大気庁(NOAA)が発表した2009年度の資源評価報告書では、メキシコ湾のマッコウクジラ個体群のPBR(生物学的間引き可能量)は3と推定されている。PBRとは人為的に除去しても個体群に影響が及ばない個体数を示す指標で、この報告書の通りなら、自然死以外の人為的原因によって年間3頭のマッコウクジラが死亡あるいは除去されると、そのマッコウクジラ個体群の長期的な生存が危ぶまれることになる。

 マッコウクジラは性的に成熟するまでに非常に長い期間を要し、特にメスは時間がかかるため、毎年3頭という一握りのクジラが減るだけでも何百頭という個体数の減少につながりうる。しかも、一生の間にメスが出産する子どもの数はわずか3~4頭だ。

 ゴダール・コディング氏は次のように説明する。「マッコウクジラはヒトに似ている。ヒトの大半は1度に6人の子どもを生むことはないし、毎年出産することもない。原油流出を含むヒトとの接触によって年間3頭のクジラが死ねば、そのマッコウクジラの個体群全体がたちまち脅かされることになる」。

 流出した原油は、マッコウクジラだけでなく、イルカなど他のクジラ目の動物にも様々な形で影響を与える可能性がある。まず、海洋哺乳類は海面に浮上して呼吸する必要があり、油膜の中を通って浮上すると有毒物質を肺に吸い込む恐れがある。また、今回の事故で流出した原油から気化して海面に立ち込めるガスは、成熟したクジラさえ気絶させて溺死させるほど毒性が強い可能性がある。最後に、マッコウクジラが捕食する魚やイカなどが原油で汚染されるため、クジラの食餌が影響を受け、また健康な子どもを育てにくくなる場合もある。

 米国海洋大気庁の海洋哺乳類の健康および座礁対策プログラムのコーディネーターを務めるテリー・ロールズ氏は、「食物網を通じて原油由来の化学物質の汚染が広がるのを非常に懸念している」と話す。

 過去の研究から、2010年4月20日にディープウォーター・ホライズンが爆発し原油が流出する以前には、メキシコ湾に生息するマッコウクジラの少なくとも一部が同採掘基地の周辺を泳いでいたことが確認されている。テキサス工科大学のゴダール・コディング氏は、「2000~2005年には、ちょうどその海域に常に約300頭のマッコウクジラがいたことがわかっている」と話す。

 メキシコ湾の原油流出事故は、1989年のタンカー、エクソン・バルディーズ号の石油流出事故でアラスカのプリンス・ウィリアム湾のシャチが受けたのと同程度の被害をマッコウクジラに与える可能性があるとの意見もある。

 アメリカ、アラスカ州にある北部湾岸海洋協会(North Gulf Oceanic Society)の海洋生物学者クレイグ・マットキン氏が率いた2008年の研究によると、エクソン・バルディーズ号の事故後に生息数が40%も減少したシャチの個体群もあったという。現在でもその個体群は以前の水準まで生息数が回復しておらず、数十年後には絶滅する可能性が高いとマットキン氏は推測する。

「その個体群では回復不可能なほど多くのメスのシャチが死んでしまい、まだその数は元に戻っていない」。今回のメキシコ湾の原油流出によってこの1年で3頭を上回る数のマッコウクジラが死ねば、メキシコ湾に生息するマッコウクジラは“絶滅の危険領域”に突入する可能性があると同氏は懸念する。

 海洋哺乳類がメキシコ湾の原油流出の影響を現在受けているかどうかは明らかになっていない。沿岸部に生息する種類のハンドウイルカ数頭が海岸に打ち上げられ、原油がその原因ではないかと疑われているが、明確な因果関係は確認されていないと米国海洋大気庁のロールズ氏は説明する。「海岸から離れた沖合の海に生息し、海中深く潜る習性を持つマッコウクジラなどのクジラは、油膜の発生源近くに生息するため、その影響を直接受けていることは間違いない」。

 しかし、クジラはほとんどの時間を海中で過ごすため、死体が海岸に打ち上げられることは少なく、クジラの死体や、原油の被害を受けたクジラを見つけるのは難しい。「原油回収作業と海洋哺乳類の観察の一環として空中からの調査が行われているが、その調査でクジラの死体が浮いているのを発見したら報告してほしいと依頼している。それが死んだマッコウクジラを見つける最も確実な方法だと思う」。

Ker Than for National Geographic News

コメントはまだありません »

コメントはまだありません。

この投稿へのコメントの RSS フィード。 TrackBack URL

コメントする